短歌ヴァーサス 風媒社
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2004.8.2〜2006.6.30の期間(一時期、休載期間あり)、執筆されたバックナンバーをご紹介します

 
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黒瀬珂瀾

 
名探偵くんくんの受難

 そりゃないよ、と思わず声をあげてしまった。
 この5月25日にひっそりと衆院を通過していた「探偵業法案」のことだ。
 全国に「探偵」の看板を掲げる業者は約3000社あるらしいが、その中でも業界団体である日本調査業協会に加盟しているのは500社ほど。その裏では、闇の探偵業者によるトラブルが頻発していたという。業界としては、探偵業市場の浄化につながる念願の法案通過といったところらしいが、その法案の蓋を開けてみてびっくりした。探偵業の届けの無い者が「特定個人の行動を調査」すると逮捕される。つまり、この法案の内実は、探偵業界安定のためのものではなく、まさしく個人による取材規制そのものだったのだ。民放連の抗議により、「報道機関の依頼による」調査は規制の対象外となった。では、独自に調査を進めるフリージャーナリストは? ノンフィクション作家は? 結局、この法案は、個人の人権よりも、社会全体の安寧、それも、施政者による支配の安寧を重視したものに過ぎない。
 探偵業界の秩序を名目としておきながら、その実情は報道規制。最近、このように、国民の目をかいくぐって立案される規制法案があまりにも多くないか。国際反テロリズムの条約批准を可能とするための「共謀罪法案」は、実質は国民の思想規制に働きかねない。現に、個人情報の悪用および流出を規制するはずの「個人情報保護法」は、施政者側にとって都合の悪い情報を隠蔽する手段として活用されているではないか。毎日のように個人情報の流出や悪用は繰り返されているのに、そちらではまともに機能せず、結局、法を独善的に拡大解釈して本来の目的を逸脱した運用がなされている。
 共謀罪についてはそれなりに報道されていたようではあるが(マスコミによって温度差はあるが)、国民に情報が浸透しているかといえば、まったくという他はない。その影でこのざまだ。悪事を働く権力者に対して一矢を報いようとする調査活動が、「探偵法」違反の名目で検挙されてしまう時代になってしまったということではないのか。そして、いつの時代も「大手報道機関」は権力に順応する。個人の権利はどこにいった? 歌人協会は、日本歌人クラブは何の声明もださないのか? また日本ペンクラブに任せて終わりか?
 要するに、支配権力以外が政治や治安にかかわるな、といいたいのだろう。だからといって、支配権力が本当に国民のことを第一に思って政治を行ってきたか? 非人道的な法案を提出する前にやれるだけのことをやってみたか? 治安危機をあおり、国民を「不安」により支配する前に、真の意味で国民個人個人を守る機関を育ててきたか? とりあえず、公安委員会の皆様は新巻さんをなんとか課の課長に任命して、素子姐さんとかバトー兄さんとかをどっかからスカウトして、まあ、あれだ、フチコマとかタチコマも導入するとなおのことよろしい。

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